10/5|藤沢の財政、神奈川の財政、そして秋の国会へ。限られたお金で、私たちは何を守るのか|横山 ゆみひこ
【この記事のポイント】
・藤沢市の2027年度予算編成方針(2026年9月18日)は、「立ち止まることとした11事業」を先送りしてもなお、多額の財源不足が生じる見込みとしています。概算要求の時点の不足額は約217億円です
・神奈川県も、税収が増える見込みの中で、2027年度に概ね300億円の財源不足を見込んでいます
・物価、賃金、AI、防衛、エネルギー。個別の論点の前に「社会として何を守るのか」から考えたい
・まだ投票できない子どもたちや、これから生まれる世代まで含めて、お金と制度を考える記事です
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■ 1.藤沢市が「立ち止まる」と決めた秋に
今年8月、藤沢市が11の事業について「立ち止まる」と市議会に報告したと報じられました(タウンニュース藤沢版、8月28日)。報道によれば、市民会館の建て替えや市立中学校給食の全員実施なども含まれています。
9月18日に市が決めた来年度(2027年度)の予算編成方針には、こう書かれています。
「立ち止まることとした11事業を先送りしてもなお、多額の財源不足が生じる見込み」
同じ9月、神奈川県も来年度について「現段階で概ね300億円の財源不足」を見込むと公表しました。そして10月には、国会(臨時国会)が始まります。
市、県、国。それぞれの資料を読み進めるほど、ひとつの問いに戻ってきます。
政治や行政は、何を守るために存在するのか。
限られたお金の中で、社会として何を守り、何に投資し、どんな制度を子どもたちに残すのか。
資料を読んでいると、「これって、本当にこのままでいいのだろうか」と立ち止まる場面が増えています。
この記事は、その考えごとの記録です。答えを押しつけるものではありません。一緒に考えるための材料として、読んでいただけたらうれしいです。

■ 2.藤沢市のお財布で、いま何が起きているのか
まず、藤沢市のお財布(一般会計)を見てみます。
2026年度の当初予算は1,919億8,100万円。前年度より6.1%増えています。
入ってくるお金の約半分(47.1%)は市税、つまり市民や企業が納める市民税や固定資産税です。出ていくお金で一番大きいのは「扶助費」(子育て、障害福祉、生活保護などの給付)で、全体の32.1%を占めています。

数字だけを見ると、予算は大きくなっています。でも、その中身はかなり苦しい状況です。
・2026年度の予算を組むために、市の「貯金」にあたる財政調整基金を過去最大の53億円取り崩し、さらに特例債(臨時的な借入れ)を18億円借りました
・その結果、2026年度当初の基金残高は約59億円。市が目標とする「約100億円以上」を大きく下回っています
・毎年決まって入るお金のうち、毎年決まって出ていく経費に充てる割合(経常収支比率)は、2023年度92.3%、2024年度94.9%、2025年度は95.2%の見込み。自由に使えるお金が、年々少なくなっています
・2027年度予算は、各部局の要求をまとめた段階(概算要求時点)で約217億円の財源不足。前年度の同じ時点より約19億円拡大しています

市は理由として、物価や人件費の上昇、児童保育や介護給付などの扶助費の増加、金利上昇による借金返済(公債費)の増加、ごみ処理施設の大規模改修や村岡新駅周辺整備などを挙げています。
また、藤沢市は国から「普通交付税」を受け取っていない団体(不交付団体)です。そのため、国の制度変更で収入が減ったり負担が増えたりしても、普通交付税による埋め合わせは届きません。国が地方特例交付金など別の形で財源を手当てするかどうかが、市の財政に直接響きます。

立ち止まることにした11事業について、市の予算編成方針は事業名を示していません。報道(タウンニュース藤沢版、2026年8月28日)によれば、市民会館を含む9施設の機能を集約する「生活・文化拠点再整備」、2030年度を目標にしていた市立中学校給食の全員実施、藤沢駅周辺地区の再整備、鵠洋小学校や鵠沼市民センターの改築などが含まれています。
市はあわせて、新規・拡充事業を原則として凍結し、市独自の事業や国・県の制度への上乗せ、団体への補助金なども見直す方針を示しています。報道(タウンニュース藤沢版、8月28日)では、さらに121のサービス・事業の見直し案も議会に報告されたとされています。
ここで私が考えたいのは、「削るか、つくるか」という二択ではありません。
大きな建物の建て替えを先に延ばすことと、子どもの毎日の昼食にかかわる給食の計画を延ばすことは、同じ「先送り」でも、暮らしへの影響の出方が違います。どの事業が、誰の暮らしの、どこを支えているのか。それを見えるようにしたうえで、市民と一緒に順番を考えることが、行政の大切な役割だと思います。
■ 3.神奈川県の財政にも見える「選択」
神奈川県の2026年度当初予算(一般会計)は2兆3,759億円です。
県は9月7日、2027年度は「現段階で概ね300億円の財源不足」が見込まれると公表しました。注目したいのは、その理由です。
県税は、個人の所得や企業収益の増加、物価上昇による地方消費税の伸びで「大幅な増収が期待できる」とされています。それでも足りない。税収が増える分、国からの地方交付税が減り、前年度に使った臨時的な財源も減る一方で、介護・医療・児童関係費、教育施設の更新、賃上げや物価高への対応にかかる経費が増えるためです。
県は、施策の新設や拡充にあたって「スクラップ・アンド・ビルド」(何かを始めるなら、何かをやめる)を徹底するとしています。
「税収が増えた=余裕がある」とは限らない。これは県にも市にも共通する構図です。
■ 4.国の制度が、地方の暮らしを左右する
市や県の財政は、国の制度と切り離せません。
たとえば、国で議論されている食料品の消費税減税。暮らしの負担を軽くする一方で、消費税の一部は「地方消費税」として県や市町村の財源にもなっています。藤沢市を含む県内の普通交付税不交付団体8市町は8月3日、減税による地方消費税などの減収分について、地方交付税による措置ではなく、地方特例交付金などで国の責任において全額補填するよう、総務大臣と財務大臣に要請しました。
藤沢市の予算編成方針も、消費税減税や「所得に連動したきめ細かな給付」に関する地方への財源措置が不透明だとしています。
国の2027年度予算の概算要求(各府省からの要求額の合計)は約143.1兆円。このうち、国の借金の返済や利払いにあたる国債費の要求は約36.6兆円で、前年度より約5.4兆円増えています。金利が上がる局面では、国も市も「借金のコスト」が重くなります。
本日10月5日に召集される予定の臨時国会では、食料品の消費税減税などが議論の焦点になると報じられています。
国の減税や給付は、暮らしを支える大切な手段です。同時に、その財源はどこから来るのか、地方の行政サービスにどんな影響が出るのか。そこまでをセットで見ていきたいと思います。
■ 5.物価と賃金:数字の改善は、暮らしの豊かさにつながっているか
賃金の統計には、改善を示す数字も出ています。
厚生労働省の毎月勤労統計(2026年7月分確報)では、働く人1人あたりの現金給与総額は43万4,507円で、前年同月より4.3%増。物価の動きを反映させた実質賃金は2.0%増で、7か月連続のプラスでした。この実質賃金は、持ち家の家賃換算分を除いた消費者物価指数を物差しにしています。
なお、ニュースでよく目にする消費者物価指数(総合)は、2026年8月に前年同月比1.9%の上昇でした。対象の月も指数の種類も違うため、これらの数字を単純に引き算して比べることはできません。
一方で、2025年の1年間で見ると、実質賃金は前年より1.3%減り、2022年から4年連続のマイナスでした(厚生労働省「毎月勤労統計調査 2025年分結果確報」)。
そして、ここでの賃金は税金や社会保険料を差し引く前の金額で、しかも平均値です。手取り(可処分所得)、社会保険料の負担、家賃や教育費、正規・非正規の違い、地域や業種の違いまでは、この数字だけでは分かりません。
経済や企業が成長することは大切です。そのうえで、その成長が一人ひとりの暮らしの豊かさにつながっているのか。平均の数字が上がったときこそ、取り残されている人がいないかを確かめたいと思います。
■ 6.AIとDXの先で、働く人と家族の暮らしはどうなる
AIの開発競争が進んでいます。私自身も、日々の仕事でAIを使い、仕組みをつくりながら、その可能性を実感しています。
行政も例外ではありません。藤沢市の予算編成方針は、DXやAIの活用に「これまで以上に積極的に」取り組むよう求めつつ、削減効果を具体的に示せないものは予算化を認めない、としています。
厚生労働省が9月29日に公表した「令和8年版 労働経済の分析」(労働経済白書)は、「AI等技術革新が進む中での労働市場の現状と課題」をテーマにしました。職種によってAIの影響は異なる可能性があり、働く人の希望に応じた労働移動やリ・スキリング(学び直し)の支援が重要だと指摘しています。
AIが仕事をどれだけ置き換えるかについては、研究や前提の置き方によって試算が異なります。
だから私は、「AIが雇用を奪う」とも「AIで社会全体が豊かになる」とも、最初から決めつけないでいたいと思います。
そのうえで、問いは残ります。
・生産性が上がったとき、生まれた利益は誰に分配されるのか
・仕事の中身が大きく変わる人を、誰がどう支えるのか
・仕事を失う人が出たとき、その家族の暮らしは守られるのか
・教育や職業訓練は、変化のスピードに追いつけるのか
・今の雇用保険や社会保障は、AI時代にも機能するのか
技術の話は、いつの間にか「働く人とその家族の暮らし」の話になります。
■ 7.教育・介護・福祉、そして「未来への投資」
これからの子どもたちが、家庭環境や所得、住む地域、障害、不登校など、さまざまな事情によって可能性を閉ざされずに学べる環境を、社会として維持できるのか。
高齢化が進む中で、介護を受ける本人だけでなく、介護する家族、働く世代、介護の仕事を担う人まで含めて、制度を続けていけるのか。
障害、生活困窮、孤立。困難の中にいる人を支える制度が、本当に必要な人に届いているのか。
制度が「ある」ことと、必要な人が実際に「使える」ことは、同じではありません。申請の期限や条件が分かりにくい、窓口にたどり着けない。そうした小さな壁が、セーフティネットの網の目を粗くしてしまいます。
国の2027年度予算の概算要求では、厚生労働省の要求額は36兆5,803億円にのぼります。社会保障の費用の多くは、年金・医療・介護など、制度で支払いが決まっている支出です。
安全保障の重要性も、私は否定しません。国の防衛力整備計画では、2023年度から2027年度までの5年間の防衛力整備の水準を43兆円程度としており、2027年度はその最終年度にあたります。
ただ、防衛費を減らせば、その分が自動的に教育へ回るという単純な仕組みではありません。各分野の予算にはそれぞれ制度や事業があり、歳出全体と財源を含めた議論が必要です。
それでも、国のお金に限りがあることは変わりません。
子どもたちが安心して学び、働き、家庭を築き、暮らしていける環境をつくることも、国にとって大切な「未来への投資」ではないか。私はそう考えています。
■ 8.エネルギー政策に残された、未来世代への宿題
エネルギーも、「未来世代に何を残すのか」という問いと深く関わります。
原子力発電所で使い終わった燃料(使用済燃料)は、国の核燃料サイクル政策の基本的な流れでは、青森県六ヶ所村の再処理工場でウランやプルトニウムを取り出し、残った高レベル放射性廃棄物をガラスで固めて、30〜50年ほど冷却のために貯蔵した後、地下300メートルより深い地層に処分することになっています。
ただし、再処理工場はまだ完成していません。使用済燃料は、いまも原子力発電所などで保管されています。

その再処理工場は1993年に着工しました。完成(しゅん工)の目標は2024年8月29日に「2026年度中」へと変更されました。同社の社長会見の記録には、青森県知事から「27回目の変更」と指摘されたことが記されています。日本原燃は2026年9月の社長記者懇談会で、「しゅん工工程への影響を見極めてまいります」と述べています。日本経済新聞の報道では、同社社長が2026年度中の完成は「厳しい」との認識を示し、年内に新たな工程を示す考えだと伝えられています。
最終処分地の選定は、法律(最終処分法)に基づき、文献調査、概要調査、精密調査の3段階で進みます。期間は、国やNUMO(原子力発電環境整備機構)の資料でそれぞれ2年程度、4年程度、14年程度と示されていますが、法律で固定された期間ではなく目安です。北海道の寿都町と神恵内村では文献調査の報告書が2024年11月に公表され、佐賀県玄海町と東京都小笠原村(南鳥島)では文献調査が行われています。
さらに2026年9月30日には、茨城県常陸大宮市の市長が文献調査の受け入れを表明しました。これは受け入れの表明であり、調査がすでに始まったという意味ではありません。
なお、文献調査は文献やデータをもとにした机上の調査で、受け入れたことが「処分場を受け入れた」ことを意味するわけではありません。国は、次の段階に進む際には知事や市町村長の意見を聴き、反対の場合は先に進まないとしています。
国は、資源の有効利用や、高レベル放射性廃棄物の量を減らし有害度を下げることなどを理由に、核燃料サイクルの推進を基本方針としています(資源エネルギー庁「エネルギー白書2023」)が、私は、現在の核燃料サイクル政策は厳しい状況にあり、その実現可能性を改めて問う必要があるのではないかと感じています。これは私個人の問題意識です。
ただ、どの立場に立つとしても、すでに生まれた使用済燃料や廃棄物は、私たちの世代が向き合わなければならない現実です。その「宿題」を、どう次の世代に引き継ぐのか。電力の安定供給、コスト、脱炭素とあわせて、正面から議論すべきテーマだと思います。
■ 9.政治と行政は、何を守るためにあるのか
財源を考えることは、単なる削減の話ではありません。
社会として何を大切にするのかを決め、それを続けていくためのお金と制度を考えることでもあります。
「今だけ、金だけ、自分だけ」ではなく、まだ投票することのできない子どもたちや、これから生まれてくる世代まで含めて考えること。
教育、介護、福祉、雇用、エネルギー、防災、安全保障。それぞれを別々に考えるだけでなく、
「未来世代が安心して暮らせる社会を、私たちはどう残すのか」
という一本の問いにつなげて考えたいと思います。
この記事に、決まった答えは書いていません。藤沢の、神奈川の、そして国のお金の使い方について、あなたなら何を守りたいと考えますか。一緒に考えていけたらうれしいです。
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【参考資料・出典】
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